講演概要:
CAEの主要分野として、CFD技術は実用的な観点からこの20年飛躍的な発展が遂げました。解析モデルの規模で言えば、数万メッシュが大規模モデルと呼ばれた20年前が今は数千万メッシュが日常的になり、まもなく数億メッシュの時代になります。物理モデル的に見ても、以前は流れと熱に加え、物質移動があれば先端的だったのが、今は流れを遥かに超えて、多層流、電解質並びに高度な燃焼モデルまで多くの高度且つ複雑な物理モデルが主要な汎用ソフトに装備されています。また、メッシュの多様性に加えメッシュ作成技術も急速に進化しました。今はCAD形状データの修正が完了すれば、殆どの場合自動メッシュ(一部6面体メッシュを除けば)が適用できます。CADデータ修正でもラッパー技術が実用化され、作業時間がかなり短縮できるようになりました。自動車エンジンルームのような従来1月以上かかるメッシュ作成が2,3日で可能となりました。
一方汎用CFD/CAEソフトもIT及び解析技術の進歩に支えられ、格段に実用性が高まってきました。最近の傾向として市販のCFD/CAEツールは、非常に多数かつ高度な機能を持ち、場合によっては複数分野のツールによる連成解析までも含めた複雑な物理現象に対応しようとするハイエンド化と、機能を限定し解析技術をなるべく利用者に意識させない簡易化へ二極化しつつあります。大切なのはどのようなツールを利用するにしても、CFD/CAEの利用技術とノウハウの構築が必要です。そのため、CFD/CAEベンダーには単純なツール開発販売だけではなく、高度な利用技術とノウハウを含むソリューションサービスの提供が要求されます。
また、ユーザ側に着目しますと、数年前までCFD/CAEツールは製品設計開発プロセスに含まれず、単なる事後確認かトラブルシューティングにしか利用されませんでしたが。今進んでいる業界においてCFD/CAEは製品開発プロセスのかなり前段階に組み込まれ、解析リード設計開発の実現に大切な役割を果たしています。CFD/CAE利用者も従来の解析専門家から設計者まで普及し、解析対象もコンポネントレベルでの現象解析からシステムレベルでのバーチャルモデリングまで広がっています。何よりもCFD/CAEが戦略的なツールと見なされた故に、利用者は流体、構造、電磁場など単体分野としての価値よりも、これらを複合的に使うことによって得られるソリューションを求め初めています。これがCAE業界におけるM&Aを引き起こす一つのきっかけとなっているのも事実であります。同時にCAE業界において、ツール開発とソリューション提供という二つの水平的なビジネスモデルが共存できる背景にもなっています。
CAEはIT業界の中に含まれているとは言え、その特殊性からすでに一産業として見做しても無理がないと思われます。日本だけでも数百億円規模の市場を有します。この高度な技術力を要し且つ競争の激しい業界の中で、CAE会社として常に自社の実力、ポジション、置かれている環境、目指す方向を正しく認識しながら、成長戦略を立てていくことが重要です。