講演概要:
周知のように,科学技術計算に現れる問題の大半が最終的に連立1次方程式A x = b を解くことに帰着され,その方程式の高速解法の開発が数値計算の分野で最も重要な課題の一つであることは異論のないところであろう.連立1次方程式のため,様々な数値解法が提案されてきた.それらは直接法,定常反復法,クリロフ部分空間法(Krylov subspace methods)と大別できる.本講演では,導出原理と分類とを中心にクリロフ部分空間法の数理について,幾つかの応用例を通して解説する.
クリロフ部分空間法は共役勾配法を源流にもつ解法の総称で,前処理技法(Preconditioning)に支えられて,また計算機の発展と相まって,現在一千万を越える未知数をもつ問題を解けるようになって,大規模問題に対する数値解法として確固とした地位を確立しつつある.20世紀を締め括るに当たって,米国SIAM等は20世紀に現れたアルゴリズムのトップテンを発表したが,FFT(高速フーリエ変換)やQuick Sortと並んで,クリロフ部分空間法もその一つにあげられている.